殺すように、愛して。
「瀬那、ずっと一人で気持ちよくなって、楽しいね」

 でも、瀬那は性欲が強いから、もっと善くならないと全然足りないよね。いつも通りの柔らかめの語尾とは裏腹に、黛は言ってすぐに腹から足を退け、あっという間もなく俺の髪を掴んで引っ張った。声が漏れ、無理やり体を起こされる。あ、は、まゆずみ、と感じた痛みすら俺を馬鹿にさせ、黛に触ろうと探るように手を浮遊させるも、邪魔だと言わんばかりに捕獲されてしまった。背中側で、拘束。明らかに黛との距離が近いのを感じ取り、吐息。鼻を掠めるアルファの、黛の匂いに蕩け、恍惚。まゆずみ、まゆずみ。そればかりを惚けたように口にして、両耳からイヤホンが引き抜かれる感覚があっても、まゆずみ、まゆずみ。求めるように、縋るように、取り憑かれたように、繰り返した。

 目を開けていても光を吸収できない状況なのに、俺の視界には不思議と、深い深い黒に負けないほどのピンクが、ぼんやりと広がっていて。薄いピンクの画面越しにものを見ているようだった。その光景は、いやらしい気分を助長させる。そして、俺の心体をどんどん解いていく。暴いていく。壊していく。まだ前戯でしかないだろうに、もしかしたら前戯にすらなっていないのかもしれないのに、与えられるものがあまりにも大きすぎて、多すぎて、もう既に抱えきれなくなりそうだった。

 外したイヤホンで、黛は俺の両腕を難無く縛りつけた。劣情に溺れる俺を引き上げることもなく、更に押し込んで沈ませていくように。いや、一緒に沈んでいくように。束縛され力の抜けた俺の手に、指と指の間に、自分のそれを絡ませた黛は、俺の横髪を耳にかけ、露わになったそこに息を吹きかけた。囁いた。瀬那、と挑発するように、囁いた。囁かれ、イヤホン越しとは比べ物にならないほどの衝撃に、背中や腰の辺りがゾクゾクと反応する。半開きの口からは喘ぐような声が漏れ、黛に絡め取られた指が、ピクリと僅かに動いた。電流が走ったかのようだった。
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