殺すように、愛して。
「あ……、まゆずみ、まゆずみ……。も、かんで、うなじ、かんで……。かんでいい……。おれを、まゆずみの、つがいにして……」

 黛の瞳孔が、開く。僅かに口角が持ち上がり、嗤う。そのゲス顔じみた表情を見て、あ、とゾクゾクと興奮し、完全に敗北したことを悟った。いいって言うまで噛まない。黛はそう言っていた。でも、その本当の意味は、いいって、言わせるまで、噛まない。俺から、求めるまで、噛まない。そういうことなんじゃないか。今になって、黛がその言葉に込めた裏の意味を知った気がした。噛んでいいと言わせるために俺を沼に堕とし、自分を求めさせるために俺を快楽に溺れさせ、その過程で邪魔になる物は、邪魔をする者は、容赦なく排除して、最終的には、俺に自ら飛び込ませることをゴールにした。そして今、俺は、人工的に作り出された道とも知らずにふらふらと歩いて、ずっと俺を待っていた黛の胸にゴールしたのだ。全て黛の思惑通り。自らの足でそこを踏んだ時点で、俺はもう、戻れない。

 まゆずみ、と彼に陥落する俺は、それを別にダメだとも悪いとも思っていない俺は、恍惚としたまま、自ら黛の体に凭れかかった。自分の目から、光がなくなったような気がした。黛の黒い服に全部吸い込まれ溶けていくように、明るい色が全て消えていった。底の見えない闇に転落する。そんな俺を支えるのは、支えられるのは、そこで平然と息をする、黛だけだ。
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