Honey Trap



―――時は、昨夜に遡る。



「…ちょ、」


舐め上げられた首筋が、ピリピリと火傷のように痺れた。

Tシャツの裾は乱雑にたくし上げられ、素肌を暴こうと大きな掌が侵入してくる。

骨が軋むほど強い力で押さえつけられた肩と、ぶつけた背中の痛みに顔が歪む。


信じられない、こんな場所で。

扉1枚しか隔たりのない、外との薄い境界線が心許ない。

今まで一度だって、あの部屋の外で行われたことはないのに。


どうして、こんなことが平気でできるのよ。


恋人でもない私たちには、誕生日に特別を求めるような理由なんてない。


「ってぇ」


思いきり鳩尾に叩き込んでやると、熱に支配された空気が一瞬にして散る気配がした。


本気の拒絶に冷めたのか、そのまま男は気まぐれに。

本当に気まぐれに、私を夜の最中に解放した。



< 126 / 296 >

この作品をシェア

pagetop