Honey Trap
「お隣もすっかり静かになっちゃって」
隣家には、今は誰も住んでいない。
ご主人の海外赴任が決まって、男の大学進学と時期を同じくしてご夫婦は海外に住まいを移している。
賑わいがなくなった日常は、祖母にとっては張りがないのだろう。
「ねぇ、おばあちゃん。宿題が終わったらあとでお菓子作り手伝って」
私がそう言うと、祖母の顔は嬉しそうに綻んだ。
長い、長い、夏休み。
小学生の私には友達と遊ぶ予定もそれなりにある。
お互いの家を行き来するくらいのものだけれど、それだけで楽しいのが子供。
時間はありあまるほどある。
退屈な時間でお菓子作りでもすれば "友達" のおもてなしもできるし、祖母も喜ぶ。
友達づきあいって気も遣うし、特に女子同士となれば裏ではいろいろとあるもの。
面倒くさいのが正直なところだけれど。
少しでも私の家に集まる機会を作れば、賑わいも増して祖母も楽しいのではないかな。