Honey Trap
憐れみを含んだ台詞を吐くと、その意味に気づいたのかどうか、女の顔が屈辱に歪む。
相手にされていない現実を認めたくはないのだろう。
「長居、するもんじゃねーな」
そう言って荷物らしきリュックを手繰り寄せる。
ずいぶんと軽装備の荷物を見れば、元々そのつもりがなかったことが窺える。
もしかしたら、この家に立ち寄るつもりすらなかったのかもしれない。
「つーわけで、帰るわ」
あっさりと、なんの未練もなく口にするから、女の顔が縋るような色から絶望に変わる。
そんなものなのだ、この男にとっては。
「あんたも帰ってくれる?」
「…どうして?」
膜の張った瞳から、今にも涙が零れ落ちそう。
そんな自分への気持ちを目の当たりにしても、男は全てを拒絶するような不気味な笑みを崩さない。
リュックを背に立ち上がって窓とカーテンを閉める容赦のなさに、女は諦めたのか部屋を飛び出していった。
「おまえも帰れよ?」
それが、私が男を見た最後だった―――。