Honey Trap
Trap4
ⅩⅢ
師走の月名の通り、日々、慌ただしく時が過ぎていく。
先週半ばから始まった三者懇談。
授業は短縮に切り替わる。
それが終わり冬休みに入れば、次は補習期間。
刻々と、過去になっていく。
心に降り積もる焦燥は、全て師走のせいにしてしまいたい。
「あー、いたいた。清水」
懇談の予定が入っている私と、同じく今日が懇談日の里央が、混沌の中で机を寄せて昼食を摂っていたところ。
私たちのように残っている人と、帰宅する人が混ざり合って教室の内外は騒がしい。
長い肢体を折り曲げて、開いた扉のフレームから中を覗き込む男の姿。
「稲葉せんせー、さよーなら」
軽やかな女子生徒たちの声に、完璧に取り繕った爽やかな笑顔で返す男は、ちょいちょい、と下に向けた掌を曲げて「来い」と合図する。