Honey Trap

ⅩⅣ




ちゃりん、と軽い音が響いて、これ以上の応酬に終止符を打つ。

手にしているのと同じ、ストレートティーのボタンをもう一度押す。


「同じのふたつ買うのか?」

「冷めちゃいましたから。友達のぶんなので」

「ふーん」


興味なさそうに落とされた相槌の裏で、一挙手一投足を逃さず観察されている。


取出口から紙パックを取り出して、歪んだトライアングルを崩す。


「じゃあ、私はこれで」

「あ、待って!」


1歩、そこを抜け出した私のあとを和田くんが追ってくる。


背後では男も私たちと同様、パック飲料を手にしているのだろう。

すでに興味を失くしたように、男の瞳の中からは私たちが消えていた。

それなのに、気を抜けば絡め取られそうな男の気配が纏わりつく。


言いたいことがあるなら、はっきり口にすればいい。



< 215 / 296 >

この作品をシェア

pagetop