Honey Trap
ⅩⅣ
ちゃりん、と軽い音が響いて、これ以上の応酬に終止符を打つ。
手にしているのと同じ、ストレートティーのボタンをもう一度押す。
「同じのふたつ買うのか?」
「冷めちゃいましたから。友達のぶんなので」
「ふーん」
興味なさそうに落とされた相槌の裏で、一挙手一投足を逃さず観察されている。
取出口から紙パックを取り出して、歪んだトライアングルを崩す。
「じゃあ、私はこれで」
「あ、待って!」
1歩、そこを抜け出した私のあとを和田くんが追ってくる。
背後では男も私たちと同様、パック飲料を手にしているのだろう。
すでに興味を失くしたように、男の瞳の中からは私たちが消えていた。
それなのに、気を抜けば絡め取られそうな男の気配が纏わりつく。
言いたいことがあるなら、はっきり口にすればいい。