Honey Trap



「美千香?」



里央の声に、は、とする。

それに反応したのは私だけじゃなかった。


ほんの一瞬、北風が途切れた刹那、その隙間に落ちた里央の小さな声を女が拾う。





こちらを振り向いた瞳が、迷うことなく私を写し出して捕らえた。


強調するように化粧に縁取られた瞳が、驚きで更に大きくなる。


驚きに染まっていた表情は、みるみるうちに怒りと憎悪に塗り替えられていく。





あの夏の面影をはっきりと残したまま美しく身繕った姿は、私を動揺させるには充分だった―――。



< 244 / 296 >

この作品をシェア

pagetop