Honey Trap
「美千香?」
里央の声に、は、とする。
それに反応したのは私だけじゃなかった。
ほんの一瞬、北風が途切れた刹那、その隙間に落ちた里央の小さな声を女が拾う。
こちらを振り向いた瞳が、迷うことなく私を写し出して捕らえた。
強調するように化粧に縁取られた瞳が、驚きで更に大きくなる。
驚きに染まっていた表情は、みるみるうちに怒りと憎悪に塗り替えられていく。
あの夏の面影をはっきりと残したまま美しく身繕った姿は、私を動揺させるには充分だった―――。