Honey Trap
ⅩⅥ
―――パシンッ…
閑散とした通りに、乾いた音が大きく木霊した。
「美千香!」
感情の昂るままに詰め寄ってきたその女は、私に対峙すると思いきり頬を平手で打った。
甘んじてそれを受け入れた私は反動でよろめく。
「おい、あんた…」
いきなりのことに、心配して駆け寄ろうとする里央と女に怒りを露にする和田くんを、ぶたれた拍子に顔を右下に伏せたまま、左手を上げて制止する。
「……っ」
2人が止まった気配を確認してゆっくりと顔を上げると、女は私をぶった状態で手を上げたまま、怒りにわなわなと震えていた。
綺麗に繕っていても、恋に狂った姿はなんて醜く映るのだろう。
冷静にそんなことを考える私の方が、よっぽど狂っているというのに。
「…お久しぶりですね、お姉さん」