Honey Trap



シン、と静まり返った。


動じない私に、里央たちも動けなくなっている。

女も昂っていた感情が、わずかに醒めたのが分かる。


私の発した声はほんの少し宙を彷徨って女の、それから里央たちの耳に届いた。



"久しぶり" "お姉さん"



そのワードだけで、女には伝わっただろう。

私たちは4年前のあの夏、すでに顔を合わせているのだから。


「…やっぱり、あの時の…」


はっきりと敵意を持った表情で、口を開く。


「あれからよ!会ってもくれなくなって、同じ大学まで行ったのに…!あんたが誑かしてるんでしょう!」


呟いた女は、沸々と怒りを再燃させて私を詰りながら掴みかかる。

恋に囚われた醜い嫉妬心が、悲痛な叫びとなって零れ落ちていく。


「…返してよ!私のヒロ先輩を」



< 246 / 296 >

この作品をシェア

pagetop