Honey Trap



ドン、と女の肩を押して駐車場の中へと押し込んだ。



私のヒロ先輩?


なにを言っているのかしら、この人は。

ずいぶんと傲慢だわ。


一時、関係があったくらいで思い上がりもいいところ。


乾いた風が心の中を吹き抜けた。


私からしたら女の方がよっぽど恵まれた立場にいるように思えるけれど、女から見れば近くにいる私の立場の方が恵まれているように見えるのでしょう。

人は、ないものねだりをする生き物だもの。



ちらほらと帰宅する人たちが何事か、と視線を向けている。

それでも薄情なもので、その人たちも無関係とばかりに素通りするか、避けて通っていく。


周りも見えなくなって歩道を塞いで騒いで、他人を巻き込んで迷惑をかける。


煩いし邪魔なので力技で鎮めると、さすがに私から女を引き剥がそうと足を踏み出した里央と和田くんも、驚いて動きを止める。


「…美千香?」


戸惑いの声が、風に攫われていく。



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