Honey Trap
Ⅲ
―――授業開始、25分。
生徒たちが黙々と机に向かう教室内には、ノートの上を走るシャーペンの音だけがカリカリと響く。
最初はあんなに騒がしかったクラスメイトたちも、今は必死に問題にかじりついている。
数学の授業はとにかく当たる率が高い。
課題に始まり、次々と出てくる演習問題。
ペースも速いし毎回問題数もかなりあるから仕方ないけれど、今日の私は運が悪い。
いや、男のことだから最初から計算していたに決まっている。
「よーし、じゃあ今日はこの公式を解説してもらおうかな」
その台詞に嫌な予感がした直後、確信に変わる。
「じゃあ、次は…清水、前出て説明して」
教師然と生徒の心境なんてお構いなしにさらりと言ってのけるけれど、その心中は私で遊んで楽しんでいるのは明白だ。
教壇から下りようとする横顔が、ほんの少しだけ愉快げに口角を上げるのを私は見逃さなかった。
(…この男、)