Honey Trap



「とにかく、それは返してあげなよ」


合コンで男を漁るような思慮の浅い女なんて、何人この男の周りにいようと構わない。

この男はそんな女に靡くような薄ぺらい人間じゃないから。


私の中にある打算的な心が冷静に判断を下す。


「えぇ?このまま切りたいんだけどな。誰かに頼むか」

「女の執念って結構怖いと思うけど?」


本当の心を覗いたら、その辺の女と変わらないような浅ましい嫉妬が転がっている。

誰かのことを考えたり、会う予定を取りつけたり、私以外の女に時間を使ってほしくない、なんて。


だけど、そんな本心は死んでも絶対に見せない。

つまらない独占欲で他の女と同じ土俵に立つより、今はさっさと繋がりを断ち切ってほしかった。



動揺、していたのかもしれない。


憂さを晴らすような身勝手さだとか、珍しく翳のある男の弱音だとか。

そんな中身のないものに乗せられて。


あけすけな本音の裏に隠された、男の憂いに私は気づけなかった。



< 72 / 296 >

この作品をシェア

pagetop