Honey Trap
かわいらしくデコレーションされたチョコレートケーキが、虚しく色褪せて見える。
「なーんか、むかつくし」
男を好きであろう女の子が、一生懸命作ったものを。
そんなもの、渡されても誰でもいい気はしないだろう。
プレゼントの横流しなんてありえないと思いつつも、先ほどよりも色濃くなった不機嫌さと私にだけ呟かれた言葉に、男の意図を探る。
「俺、甘いの好きじゃないし。女子の方がこういうの好きだろ、な、美千香」
もしかしたら、男は前からこの状況を予見していたのかもしれない。
女の子にプレゼントを貰うのは、なにも今年が初めてではないのだろうし。
「マジで言ってんの?」
「だったら俺らが食べるのに、俺らに恵んでくれよ」
「人になにかを求めるなら、それなりの対価がないとな?」
「クソ、なんか腹立つけど誕プレあげときゃよかった」
喚き声を無視する男は色のない瞳に私を映して、
「悪いけど、今日はそれ、ナシな?」
不敵に笑って私を試す。