Honey Trap




「はーい、テスト返すぞー」


数学の時間、先日のテストが返却されていく。


テスト期間が明けた今、冷え込みは深まり季節はぐっと冬へと近づいた。


澄んだ空気がもの淋しい雰囲気を際立たせ、街からは心なしか活気が消えていく。

この得体の知れない、そこはかとない喪失感が苦手だ。



「清水」

「はい」


男はちらりと答案に目をやったあと、怠惰に視線を寄越す。


けれど、その仕種に反して至って真剣な色をした瞳は、私のそれをまっすぐ貫いて。

まるでその奥に隠された真意を見透かすみたいに、深いブラウンの瞳に私が映る。


まるで瞳の中に、囚われているみたい。

だってその視線の引力に、いつだって私は吸い寄せられてしまうのだから。



「清水、ちょっと…」


授業が終了すると男が私を手招きする。

なにを言われるのか、おおよその検討はついているからこそ気が重い。



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