Honey Trap
Ⅶ
「はーい、テスト返すぞー」
数学の時間、先日のテストが返却されていく。
テスト期間が明けた今、冷え込みは深まり季節はぐっと冬へと近づいた。
澄んだ空気がもの淋しい雰囲気を際立たせ、街からは心なしか活気が消えていく。
この得体の知れない、そこはかとない喪失感が苦手だ。
「清水」
「はい」
男はちらりと答案に目をやったあと、怠惰に視線を寄越す。
けれど、その仕種に反して至って真剣な色をした瞳は、私のそれをまっすぐ貫いて。
まるでその奥に隠された真意を見透かすみたいに、深いブラウンの瞳に私が映る。
まるで瞳の中に、囚われているみたい。
だってその視線の引力に、いつだって私は吸い寄せられてしまうのだから。
「清水、ちょっと…」
授業が終了すると男が私を手招きする。
なにを言われるのか、おおよその検討はついているからこそ気が重い。