社長は身代わり婚約者を溺愛する
下沢さんを見ると、不敵な笑みを浮かべている。

「それは……私に好意を持ってくれているって事ですか。」

「そう思ってくれていいよ。」

私は、下沢さんと反対の方向を向いた。


人が弱っている時に、つけ込んでくる人だったんだ。下沢さんって。

そしてエレベーターの扉が開き、下沢さんはビルのエントランスまで、一緒に来てくれた。

「じゃあ、明日また元気で会おう。」

「はい。お疲れさまでした。」

下沢さんは、手を振っている。

でも今は、それに応えられない自分がいる。


家までは、ぶらぶら歩いて帰ったら、いつもよりも30分多くかかった。

「ただいま。」

誰もいないはずなのに、お父さんがわざわざ工場から、姿を現した。

「どうした、礼奈。」

「体調不良で、早退してきた。」

「おいおい、大丈夫か。」

私はお父さんを見つめた。

「お父さん、朝の話の続きだけど。」

「男がいるって話か?」

うんと、私は頷いた。

「別れたから、もう心配する事ないよ。」

私は後ろで騒ぐお父さんを放っておいて、自分の部屋に戻った。

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