社長は身代わり婚約者を溺愛する

第14話 君が好き

芹香から借りたお金で、工場は持ち直したかに見えた。

「払う物は全部払った。後は、注文が来ないとな。」

お父さんは、そう言ってお得意先に、営業の電話をし始めた。

「どう?」

「閑散期だからな。どこも金を使いたくないらしい。」

時期もあるのだろうけど、これでは自転車操業もままならない。

「芹香からの借金は、私が返すから気にしないで。」

「そう言われれもなぁ。」

お父さんは以前から、芹香からの借金を気にかけていたらしい。


「おまえだって、貧乏工場の娘は嫌だろう。」

「私はいいよ。大丈夫だから。」

お父さんが工場を始めたのは、お母さんと結婚する前からで。

なんだかんだ言って、今までやってきた。

兄妹はいなかったけれど、一人娘を育ててくれた両親には、感謝したい。


「でもな。いい加減、あの家から借金するのは、止めにしたいな。」

「あの家って……」

まるで芹香の家を、敵対視しているみたい。

「芹香ちゃんの家ってのは、あの近くの屋敷みたいなところだろ?」

「そうだよ。」

「若い時から、気に食わなかったんだよ。」

お父さんの小さなプライド。
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