社長は身代わり婚約者を溺愛する
きっと、私が大学で芹香の友人にならなければ、気にせずに済んだのに。

「ごめんね、お父さん。芹香と友達になったばかりに。」

「いいって事よ。おまえの交友関係を、制限する気はないからな。」

お父さんは、いい人だ。

だから営業で、一回断られたら、それ以上言えないんだと思う。


その時だった。

門から、すみませんと言う声が聞こえて来た。

「誰?」

工場から外を覗く。

「こんな時間じゃあ、営業周りの奴だろう。」

「じゃあ、無視した方がいいかな。」

私も営業トークを聞くのは、こりごりだ。


「そう言えば、お母さんは?」

「買い物に行ってくると。」

「そう。」

「そろそろ、帰ってくる頃だろう。」

そう言われて、工場の外を見ると、お母さんが誰かに手招きをしていた。

「なんか、お客さんみたいだよ。」

「客?」

お父さんは、何を勘違いしたのか、立ち上がっていそいそと工場を出て行った。

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