社長は身代わり婚約者を溺愛する
そして、その事件はこの週末に起きた。

工場の前に、立派な車が停まった。

一人のスーツを着た男性が、工場に入ってくる。


「森井さんのご主人は、いらっしゃいますか。」

「はい。」

代わりに迎えた私は、その人を見て、ハッとした。

「芹香の……お父さん……」

「ああ、礼奈さんというのは、君の事かな。」

「……はい。」

芹香のお父さんは、私の顔をじろじろと見て来た。

「君とお父さんに、話がある。」

「信一郎さんの事なら、お父さんは関係ありません。」

「あるでしょう。結婚は、家と家との結びつきだ。」

私は、ゴクンと息を飲んだ。

お父さんに、何を言う気なのだろう。


そんな私達の攻防戦を見て、お父さんがやってきた。

「ああ?おまえさん、あの金持ちの?」

「沢井です。今日はお嬢さんと信一郎君の事について、話があります。」

「信一郎君の事?」

私は、お父さんをもう一度、工場の中に入れた。

「実は信一郎さん、芹香と結婚する事になっていたの。」

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