社長は身代わり婚約者を溺愛する
その瞬間、信一郎さんと目が合った。

マズい。

私は、一瞬身を引いたけれど、今が乗り込むタイミングだと思い、もう一度身を乗り出した。

そして信一郎さんが、首を振る。

今は、飛び込むタイミングじゃないって事⁉

それとも、来るなって事⁉


「沢井さんの家のご事情は、知っています。」

「事情?」

信一郎さんのご両親は、驚いている。

「事情とは何ですか?」

信一郎さんのお父さん、お金を出すのに、事情を知らないの?

「沢井さんの奥さんが、ご病気で施設に入るのに、支度金を使うようです。」

「奥様がご病気?」

信一郎さんのお母さんも、心配な様子だ。

「施設に入るなんて、何のご病気なんですか。」

芹香のお父さんは、困った顔をして、信一郎さんを睨んでいる。

きっと、知られたくなかったのだろう。

「沢井さん。」

信一郎さんのお父さんが、もう一度聞く。

「……妻は、若年性認知症でして。」

「そうでしたか。」

これで、芹香の事は諦めて。

お願い、信一郎さんのお父さん!
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