社長は身代わり婚約者を溺愛する
だけど、その後の信一郎さんのお父さんは、とんでもない事を言い始めた。

「支度金、1億で足りますか?」

「えっ?」

「認知症の施設と言ったら、大変でしょう。足りない場合は、仰って下さい。」

「黒崎さん……」

「何、こんな綺麗なお嬢さんを、信一郎さんのお嫁さんに貰えるなら、安いモノですよ。」

信一郎さんのお父さんとお母さん、笑っている。

「ですが……」

「信一郎、何も言わずに結婚を決めろ。」

信一郎さんのお父さんも、この結婚に乗り気だ。


私はフラッと、窓から離れて、庭を歩いた。

きっと、信一郎さん一人の意思では、この結婚を断れない。

ー 愛だけじゃ、足りないのよー

芹香、本当だね。

私は、何を勘違いしていたんだろう。

お金持ち同士の結婚に、愛なんて必要ない。

必要なのは、支度金だって、今更分かった。


「……っ。」

涙が溢れてくる。

信一郎さん、さようなら。

今まで、楽しかったよ。

私は一人静かに、そのお店を去った。

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