社長は身代わり婚約者を溺愛する
そして部屋に着くと、私はバッグを置いて、服を脱ぎ始めた。

「礼奈?」

「私、信一郎さんを癒す方法って、これしか知らないから。」

下着一枚になって、ソファーに座った信一郎さんの上に乗る。


「信一郎さん……私を好きにしていいよ。」

すると信一郎さんは、私をぎゅっと抱きしめてくれた。

「ありがとう、礼奈。」

その涙が混ざっている声で言われると、私も無性に泣きたくなった。


でも、次の瞬間、信一郎さんは信じられない言葉を言い出した。

「礼奈、別れよう。」

「えっ……」

頭が真っ白になった。

「今の俺は無職だよ。結婚しても、君を幸せにしてあげられない。」

私は歯の奥をくいしばった。

「幸せって何?」

「礼奈?」

「信一郎さんと一緒にいる事が、私の幸せなのに。それ以外の幸せってある?」

私は溢れてくる涙を拭いた。

だけど意外にも信一郎さんは冷静だった。

「あるよ。お金の心配がない生活だとか。子供のいる人生とか。」

「だって、それはっ!」

「今の俺には、礼奈に与えられないものだよ。」
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