社長は身代わり婚約者を溺愛する
私はそっと、信一郎さんから離れた。

「分かった。」

信一郎さんは、何もかもリセットしたいんだね。

私のいない人生を選んで、何かもやり直したいんだね。

私は、服を着た。


「今までありがとう。」

信一郎さんからの返事はない。

「でもこれだけは、忘れないで。」

信一郎さんが、こっちを向いた。

「私、誰とも結婚しないで、誰とも付き合わないで、信一郎さんが来るのを家で待っているから。」

「礼奈……」

「愛しているのは、ずっと信一郎さんだけだから。」


そう。あの日、信一郎さんに出会った時に。

私は、運命を感じた。

一生、この人と生きていくんだって。


私は、信一郎さんに背中を向けた。

最後に抱きしめて欲しいけれど、それもない。

私はゆっくりと歩き始めて、信一郎さんの家の玄関に辿り着いた。

一度だけ振り向いたけれど、信一郎さんはソファーに座ってうつむいたままだった。

「信一郎さん……」

サヨナラも、愛しているも言えなかった。

私はそっと、玄関のドアを開けた。
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