社長は身代わり婚約者を溺愛する
あれから、5年の歳月が過ぎた。

私は会社を辞め、大きくなった実家の工場で、働いていた。


「おう、社長。」

近所の人が、お父さんを訪ねて来た。

「なんだ、見知った顔だな。」

「誰を期待してんだよ。ほら、回覧板だ。」

「ありがとよ。」

そして近所の人が、こっちを向いた。

目が合って、私は頭をちょこんと下げた。


「礼奈ちゃん、結婚まだなんだって?」

「ああ、まだだな。」

「女は30になると、結婚できないって言うぞ。見合いでもさせないか。」

おじさん、その話。私の耳にも届いてるんだけど。

「ちょっとぽっちゃりしてるけれど、心のいい奴がいるんだよ。」

「年収はどれくらいだ?」

「そこそこあるよ。」

不思議だ。私の結婚話を、近所のおじさんとお父さんがしている。


「まあ、難しいと思うぞ。そんな程度じゃ、礼奈は靡かないからな。」

お父さんは、ふんぞり返っておじさんの話を否定している。

「あのな。女って言うのは、年々市場価値が落ちるんだよ。」

「だからって、妥協で結婚しないだろ。」

「また。行かず後家になっても知らないぞ。」
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