社長は身代わり婚約者を溺愛する
いつの時代だよ、と思った。

でも、私の事を話すのは、近所のおじさんだけじゃない。


「礼奈。久しぶり。」

いつものカフェで話す芹香もそうだ。

「いいなぁって思う人、いないの?」

「うん。」

芹香はあの後、好きな人に出会って、スピード婚をした。

一般の人みたいだけど、芹香のお父さんは納得しているらしい。


「って言うか、信一郎さんが迎えに来てくれるから。」

「まだ、そんな事言っているの?」

芹香はコーヒーを零すぐらい驚いている。

「私達、もう30なんだよ。5年も前の恋愛なんて、もうないもんだよ。」


人は、平等に歳をとっていく。

特に女性は、30歳を境に、価値が減少していく。

いづれ、結婚も出産も、諦めなければならない歳も迎える。


でも、私の中では信一郎さんの恋は、今でも鮮やかに色をつけていて。

ふいに、信一郎さんが来てくれるような気がすると、他の人なんて見ている余裕がなかった。


「いいの?このまま結婚できなくても。」

「いいよ。信一郎さん以外の人と結婚したくないし。」

「はーあ。礼奈程の女が、勿体ない。」
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