社長は身代わり婚約者を溺愛する
いつまでも、私の味方でいてくれる芹香。

5年経っても、私の気持ちは変わっていなかった。


そんなある日の事だった。

「すみません。」

男の人の声がして、仕事の手を止めた。

「こちらに、森井礼奈さんと言う方は、いらっしゃいますか?」

「森井礼奈は、私ですけど。」

何の用だろう。

工場から顔を出してみた瞬間、私は飛び上がる程驚いた。


「礼奈、久しぶり。」

そこには、私の待ち望んでいた人が立っていたからだ。

「何、久しぶり過ぎて、声も出ない?」

あの日と同じ笑顔。

変わらない。でもちょっと前より高いスーツを着ているかもしれない。

「どうして……」

「迎えに来たんだよ。」

そう言って信一郎さんは私に、花束を渡してくれた。


「近所の人に聞いたよ。まだ誰とも結婚していないんだって?」

私は涙を流しながら、うんと頷いた。

「あっ、だけど彼氏ぐらいはいるか。」

「ううん、いない。」

私はこの瞬間を、この5年間待っていた。
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