社長は身代わり婚約者を溺愛する
芹香は、いつも直ぐに電話に出てくれる。

「芹香、お願いがあるの。」

『またお金の事?』

図星の回答に、息が止まる。

『いいけど、今回はいくら?』

「……100万。」

『100万⁉』

両親は一斉に、私を見た。


『その金額は、私一人じゃどうにもならないわ。』

「何とかならない?工場が倒産寸前なの。最後のお願いだから。」

芹香のため息が聞こえてくる。

『何とかしてあげたいけれど、返す当てがあるの?』

「うん。」

『どうやって返すの?』

私は歩きながら、考えた。

「……私、外で働くから、その給料から支払うわ。」

『分かった。私もお父さんに言ってみる。』

そこで、電話は切れた。

辺りはシーンとしている。

「そう言う事だから、私今日から就活するわ。」

そう言って工場を去ろうとした私の腕を、お母さんが掴んだ。

「ごめんね。いつも苦労かけて。」
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