海色の世界を、君のとなりで。
くるりと踵を返すと、後ろから「成瀬!」とわたしを呼ぶ声が聞こえた。
「戻らなきゃいけないの。星野はこのまま帰っていいから」
「……違う違う。今の、嘘だから」
「嘘?」
眉を寄せて振り返ると、したり顔の星野と目が合った。
彼は悪戯っぽく白い歯を見せて笑い、手招きをしている。
「嘘って、どういうこと?」
「お前のことも俺のことも、ちゃんと顧問に言ってきました。だから、無断欠席ではありません」
「……え、いつ」
「教室に残ってるお前に会う前」
初めから、こうなることはお見通しだったかのように。
ふはっと笑みをこぼす星野の顔をじっと見つめる。
その顔を見ると、安心したような、それでいて腹立たしいような、複雑な感情が入り混じる。
顧問に部活の欠席を伝えていた星野を流石だと思うと同時に、サボりではないと分かっていた上でわたしをからかっていたのかと怒りたくもなってくる。
やけにのんびりしていると思っていたのだ。
わたしはそれでも、"サボり"というなんとも学生らしい言葉に淡い憧れのようなものを抱きながら、それをしている今少々後悔が芽生えていた。
誰かに見られたらどうしよう、と心の中ではビクビクして、怯えて。
きっと、勘のいい星野には気付かれている。