海色の世界を、君のとなりで。
***
「よう」
可奈が部室から出てくるのを待っていると、ふいに横から声がした。
振り向くと、そこにはやけに穏やかな星野の顔があった。
彼は目を細めて「なんか久しぶりだな」と呟く。
「……そうだね」
一緒に帰った日から、星野のことをなんとなく避けてしまっていた。
特に話さなくても生活に支障はないあたり、わたしたちの関係性はますます複雑だなあと思う。
名前をつけにくい、つけられない関係性だ。
結局、あの出来事はわたしの中ではなかったこととして扱われている。
それはきっと、星野も同じだろう。
「今日……なんかあったか?」
「なんかって……何が?」
「それを訊いてんだよ」
ふはっと笑った星野は、艶のある黒髪をさらりと揺らした。
「特に何もないけど、どうして?」
「なんか、プレーがいつものお前と違ったから」
「えっ」
それは今日、顧問の先生にも、あの真波先輩にも言われた。
『今日のプレー、栞らしさが出てていいじゃん』と。
気持ちの持ちようでプレーは大きく変わってくるのだと、今この瞬間で認識する。