親が体験した怪奇譚/短編ホラー集ー家族愛編ー
その7



翌日、母と実家の庭を掘り起こし、父が自らのサガと苦闘の末に掴んだ子孫へとつなぐ知恵の詰まったタイカプセルを開封したのです。

その後、夫が家に戻った日、彼がショックを受けることを承知で、私と母は誠意をもってありにままを話しました。
それはまさに体当りでした…。

そして約数週間かけ夫の理解を得て、母を交えた家族全員で翔太に”すべて”を明かしました。

息子は最初取り乱しましたが、これも時間をかけ、家族皆が全身全霊をもって翔太に愛情を注ぎ続けたのです。
結果…、翔太は自らの心とさだめに立ち向かう決心をしてくれました。

それから約1年…。
翔太の盗難癖は収まりました。
翔太の犯罪歴も最小限にとどめることができました。

しかし、それは家族全員の凄まじい戦いそのものでした。
学校、警察、PTA、翔太の友人たち…。
到底、わが家の家系のことなど、まともに信じてはくれません。
それを承知で、それらすべてに家族が知恵を絞り、力を合わせて乗り越えたのです。

...


翔太は早くも、自分の壮絶な体験から得た知恵を、子孫に残すためのタイムカプセルを準備しています。
彼は私の父から承継したヒントを元に、どうやら盗難の欲求はここ数代で急下降している分析を導いたのです。

そのことは、盗難癖を持って生まれる運命など将来わが家系から消え去るという、自分の子孫に向けた希望のメッセージに他なりません。

いえ…、それだけではないのかもしれません。
翔太にとってそのメッセージは、自らのタイムカプセルを自分に残してくれた、天国の父に向けたものでもあるような気がするのです…。



神奈川県在住 柏木美穂(37歳)



ー完ー





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