とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
「……嘘」

「嘘?」

「かわいいなんて、嘘」

「嘘じゃないよ」

「かわいいわけ、ないじゃないですか。
こんなの気持ち悪いでしょ。変態でしょ」

変態って、と邑木さんが吹き出した。
こんなときでもこの(ひと)の笑いのツボは浅い。

「だとしたら、俺は変態歓迎だけど」

大きな手が、髪を撫で、頬を撫で、猫の喉を鳴らすように首を撫でた。

くすぐったくて、喉から鈴のような笑い声が転がった。
身を捩って逃れようとしても、わたしを追いかけ回す手は休まらない。

ころころと転がり、部屋中に鳴り響く鈴の音。
邑木さんとわたしと、無機質なパキラ。
ハンカチ越しではないこの(ひと)の香りと体温に包まれる。

くすぐられて笑うなんて、いつぶりだろう。
わたしは笑い声の延長線上で訊いた。

「なんで戻ってきたんですか」

「ああ、忘れ物して」

なんだ、忘れ物か。

そう思ってから、すぐにその思いを打ち消した。

なんだ、なんて。
わたしはなにを期待していたのだろう。

膨らんでいたなにかが、急速にしぼんでいく。
< 168 / 187 >

この作品をシェア

pagetop