とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
ひーくんと別れてから何キロ落ちただろう。

もともと痩せ気味だったわたしの躰は、それまでよりも寒さに敏感になり、服はどれも緩くなった。
一向に弛緩(しかん)しないのは心だけ。
透明な檻に囚われたまま、時間だけが過ぎていく。

だけど、昨日は。

昨日は、ひーくんのことより考えていたのは

「邑木さん、リボン結び下手なんですね」

「ああ、ごめん」

なかなか背後から動かず、ずっとエプロンの腰紐を調整している。
まちのパンやさんのわりに手先が器用じゃない。

「いいですよ。自分でやります」

正面を向いたまま両手を背後にのばすと、その手をぎゅっと握られた。
突然のことに肩がびくりと跳ね上がる。
大きな手の中で指を動かし、じたばたと抵抗をしても離してくれない。

「ちょっと、邑木さん!」

「由紀ちゃんと俺、いまつき合ってるんじゃなかったの。
恋人同士なら、これくらい動揺することじゃないだろう」

そうだ。わたしはいま、この(ひと)とつき合っている。
こんなことは動揺することでも、抵抗することでもない。
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