とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
「このワイン、おいしい」

「ならよかった。そんなに高いものじゃないけど、口当たりいいから気に入ってて」

「邑木さん、もしかしてワインのうんちくとか語っちゃうタイプですか」

「まさか。君が聞きたいって言うなら勉強するけど」

「嫌ですよ。そんなもの聞きたいわけがない」

くすくす笑う二つの声が重なる。

お互いにくだけた口調だった。
昨日のことが嘘のように思えてくる。
一緒にキッチンに立って交わした会話も、食事中の会話も、思いのほか愉しかった。



――キッチン、こんなにスパイスあったんですね。


――売り場の店員さんに言われたままに買っただけだから、違いはよくわからないけどな。


――じゃあこれは、かっこつけて並べてるだけなんですね。


――意地悪だな。



わたしがなにを言っても邑木さんは微笑んだ。

ただ一つ反論されたことは、苺のサラダの食わず嫌いはいつか後悔するときがくる、ということだけだった。
< 94 / 187 >

この作品をシェア

pagetop