とことわのその ― 獣と絡まり蔦が這い ―【加筆修正版更新中】
「嘘……ですよね。邑木さん、いろいろ慣れてた」

茶化すように言うと、君より十年近く長く生きてますから、と苦笑された。
ああ、と頷きながら、わたしは逃げ出したくなった。

胸がどくどくと、音を刻みはじめてしまった。
この(ひと)の香りが、心地よくなってしまった。

こんなの、おかしい。

昨日はあんなに邑木さんに腹が立っていたのに。
嘘くさい、使い古された甘い言葉にふらっとするような、そんな弱い女じゃなかったのに。


どうかしているのはこの(ひと)よりも、わたしの方かもしれない。


「もう一杯、ワイン飲む?」

「いえ、いいです」

「俺のことは気にしないでいいよ。おいしいうちに飲んだ方がいいから」

「ほ、本当にいいです。もう、いいです……」

「酔ったか」

頬に手がのばされ、思わず躰を後ろに引いた。
大袈裟に引いたわけでも、顔を(しか)めたつもりでもなかったけれど、邑木さんの手はわたしに触れないままソファーの上に戻された。

わたしの左手と邑木さんの右手。
その距離はさっきよりも離れていた。
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