長い間好き避けしていた伯爵が噂の悪女に騙されそうになっていたので、助けようと説明をすればするほど好きアピールだと勘違いされた私の困惑。
「では、イヴリン。また、帰りの時刻に」

「ええ。お兄様も、良い夜を」

 私は一緒に舞踏会に共に入場して来た兄と、いつものように別行動するために入口付近で微笑み合って別れて会場全体を見回した。

 右よし左よし。正面もよし。

 うん。大丈夫。彼は今近くには、居ないわ。

 私が距離を取りたいと思っている彼が居るところは、とても目立つ。ぱっと遠目で見るだけでも、現在地の把握が出来てしまう。

 美しいと評判の令嬢や彼の仕事関係らしい将来有望な令息たちが常に周囲を取り巻き、辺りを払うようなとても華やかな一団となるからだ。

 テオフィル・ファーガス伯爵。彼は、若くして伯爵家を継いだばかり。学生時代、貴族学校では常に首位、今では宰相の補佐を担当。若き現王とは乳兄弟という間柄で、どこを取ってもこの先もう出世するしかない男性だ。

 そして、ファーガス伯爵は、この国では珍しい金髪緑目でまるで王子様のような麗しい容貌を持っていた。彼の母は異国から来た貴族令嬢だったというので、その血がより濃く出たのかもしれない。

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