長い間好き避けしていた伯爵が噂の悪女に騙されそうになっていたので、助けようと説明をすればするほど好きアピールだと勘違いされた私の困惑。
 そして、私が社交界デビューした直後のこと。とある夜会で今をときめく麗しのファーガス伯爵を初めて見かけた時に、私は思ったのだ。あのくらい自身も有能で何もかもを持つ人なら、私の家が持っているお金など特に気にも掛けないはずだと。

 それから、彼の姿を見掛けるたびに、その存在が私の心をじわじわと浸透していくようにして、ファーガス伯爵が気になって仕方なかった。

 次代の宰相候補のファーガス伯爵が、家に少し小金を持っているからと言って単なる子爵令嬢など、選ぶはずもない。彼ならば、彼より高位にあたる公爵令嬢からだって、妻の座を狙われているという話も聞いたことがある。

 私がもし彼だとすれば、間違いなくそちらを選ぶ。相手の持っているカードが強過ぎて、賭けに挑むだけ無駄だ。こうした勝ち負けは産まれた時に、大体は決まっているのだ。今更足掻いたところで、むなしいだけだ。

 だから、私は好きだからこそ、ファーガス伯爵と常に一定の距離を取ることにした。好き過ぎるから、これ以上近付きたくないとも言える。巷では、いわゆる好き避けと呼ばれている本人以外にはとても説明のしづらい感情である。

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