勇者の幼なじみ

突然の来客

 ──*──

  セフィルは三年経っても帰ってこなかった。

 新聞にセフィルの活躍が載りはじめると、その記事を貪るように読んだ。
 セフィルは、他にも魔道具が指し示した魔法使いや騎士や聖女と国王軍とともに復活したとされる魔王のもとへ向かっていた。
 近くなるにつれ、魔物が増え、その力も強大になっていっているそうで、私は心配でならなかった。
 『勇者が魔王を倒した』と号外が出たときには歓喜して、ちょっぴり期待した。
 それでも、セフィルは帰ってこなかった。
 今は王宮で暮らしていて、王女様と結婚するんじゃないかと噂されている。
 
(昔、想像したとおりになっちゃったなぁ。セフィルはすごいな)

 一方、私はセフィルが予想した通り、友達が結婚していく中、誰からも求められることなくひとり身だった。
 もうすぐ二十歳になるのに、お父さんも縁談を持ってきて結婚を急かすことさえしなかった。

「お父さん、私、誰かに嫁ぐとかお婿さんをもらうとかしなくていいの?」
「なに言ってるんだ。お前にはセフィルくんがいるだろ?」
「お父さんこそ、なに言ってるの? セフィルが帰ってくるはずないでしょ?」

 そう言うと、お父さんは不思議なものを見たというように私をしげしげと見た。
 三年間、手紙さえ来なかったのに、どうしてセフィルが帰ってくると信じられるのだろう?
 しかも、帰ってきたとして、今さら私をもらってくれるわけがない。
 この三年間で、私はパン作りの腕を上げた。
 好きな人はセフィルしかいないし、このままパン屋としてひとり生きていくのもいいなと思っていた。
 その矢先――


 配達から帰ると、うちの店の前に、きらびやかな装飾のついた豪華な白い馬車が停まっていた。
 びっくりして、店の中に入ると、お父さんがほっとした顔で出迎えてくれた。

「ファラ、お前にお客さんだ」
「私に?」

 椅子に座って私を待っていたのは、ゴージャスな美女だった。
 丁寧に巻かれた金髪が美しい顔を彩り、フリルたっぷりの真紅のドレスに負けない華やかさだった。
 そのつり目に緑の瞳が私を見た。
 上から下まで観察するように。
 そして、ふっと勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
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