僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
「見て見て、彩葉(あやは)。この人の写真だけ、ぜんぶ色がない」

友達の星羅(せいら)が足を止めて、廊下の掲示板を見ながらおもしろがるように言った。

「なんか、昔の写真みたい。アートっぽくして個性出そうとしてるのかな?」

ちょっとだけ鼻で嗤うようなかんじを見せる星羅。

星羅は、背中までの茶色い髪の、少し派手な見た目をしている。

背もすらりと高く、私とは違って大人っぽい髪型がサマになる。

小柄で地味な私は、ここ何年も、肩までの長さの黒髪をキープしている。

短くも長くもない、目立つことを避けた平凡な髪型。

砂埃のついた窓の向こうで、青々とした葉っぱが風に揺らいでいる五月の初め。

漢文の選択授業のために旧校舎の廊下を通ったのはまだ三回目で、こんなところに写真部の部室があるなんて気づかなかった。

そもそも、この学校に写真部があることすら知らなかった。
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