僕は花の色を知らないけれど、君の色は知っている
教室と呼ぶのもためらうような、どこにでもある普通のドアの横にある廊下の掲示板。

部員の名前とともに、それぞれの力作らしき写真が、ぽつぽつと二枚ずつ展示されている。

星羅が注目しているのは、一番端に展示されている写真だった。

解像度の高い色鮮やかなほかの写真とは違い、その二枚の写真だけが白黒だったのだ。

まるで世界からごっそりと色彩だけが抜け落ちてしまったかのような、灰色の世界。

ひとつは、誰もいない渡り廊下の写真。

ひとつは、誰もいない昇降口の写真。

私は思わず息を止めて、その写真を見つめた。

――私のいる世界と同じだと思ったから。

きらびやかな世界からほど遠い、色の失われた世界。

気味が悪いほど静かで、暗くて、どんなにあがいても抜け出せない沼の底のような空間。

実際、本当に色が見えないってわけではないけど、沈んだ気持ちが世界をそんなふうに私に見せている。
< 9 / 308 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop