息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
死者からの手紙/その4
「あんた…、どなたさんじゃね?そのオートバイ、祐二が乗っておったもんだろうが」
その声は低くややかすれていたが、しっかりとした口調ではあった。
そして不健康そうにくぼんだ目から発する淀んだ眼光が、”よそ者”をレントゲン照射していた。
あいさつ代わりと言わんばかりに…。
...
「このバイクは向井さんからネットオークションで私が譲り受けました。先週末に…。今日は、向井さんにお会いしようと、千葉から来たんです…」
律子はそう言い終えると、再度”祐二の家”を振り返った。
「…」
老人はその淀んだ瞳を、律子の左脇に停車しているバイクから離すと、再び口を開いた。
「…祐二は死んだよ。一昨日、地蔵の杉で首を括ってな」
「…」
心の内からは反射的に、”やっぱり”の一言が発せられたのを律子は自覚した。
それはまるで、予期していたかのように…。
確かに祐二の自殺は言い表せないほどのショックだった。
だが、今悲しみに浸るのはまだ早いと、それこそ無意識に自分へ言い聞かせていたのだ。
そう…、まずは知るべきこと、確かめるべきことをはっきりさせてからだと、律子の頭と心には整理がついていた。
...
「それなら、あんたは津藤さんじゃね?」
”ちょっと…、なんで知ってるの?私の名前…”
老人には彼女の心のつぶやきが聞こえたらしい。
「…この紙切れ、あんたがここに来たらに渡して欲しいと頼まれていたんでね。ほれ‥」
老人は一歩前に出て、律子にポケットから取り出したメモ書きのような紙を、押しつけるように差し出した。
「あのう、これはどなたから…」
「祐二の身内の女から預かった。昨日の午後、祐二の遺体を引き取る手続きで警察を訪れた帰りにここへ寄ってな…。なんでも、祐二からの手紙が届いて、そこにあんたの名前が出てたそうだ…」
「えっ?亡くなった向井さんから手紙って‥」
「…あんたの知りたいことは、月枝さんという叔母に当たるその女と会えば全部わかるさ。わしが中途半端に話すより、月枝さんから聞いた方がいい。そこに書いてある携帯番号に電話すりゃ、連絡がとれるさ」
そこまで話すと老人は律子に背を向け、外へ向かって歩き出した。
今度は後ろ姿のせいか、同じゆっくりとした足取りながら、何か低く飛び跳ねてるように見えた。
それは動きの鈍いカエルのご帰宅さながらだったが、律子の目にはやはり妖怪に映ってしまう。
「あの!お名前聞かせてもらえますか?」
咄嗟の判断だったが、律子は老人の”素性”は確かめておくことにした。
「わしは向井のこの家から3軒先の石毛っていうもんじゃ。…もっともこの集落じゃあ、石毛が3分の1だわ。わしのことは青屋根の石毛って言えばここのもんには通じる」
「じゃあ、向井さんって家もこの辺には多いんですか?本家とか分家とかってことで…」
なぜか、”その言葉”は自然と出た…。
知りたいというよりも、この時の律子には、妖怪じいさんにぜひ確かめておきたいこと…、その思いの方が強かったのだ。
...
尾隠しの妖怪は一旦立ち止まり、律子を振り返ると、かすれた声で答えた。
「向井はこの一軒だけじゃった。それも祐二が死んで、オヤジやほかのもんももうおらんし、向井の家は絶えたことになる。この家と土地も担保に入ってるようだし、いずれ人手に渡るだろうな」
「…そうですか。では、石毛の家はまた占拠比率が上がりますね?」
「…大して変わるか、その程度で!」
石毛という老人は語気を荒げた。
そして心持ち足早に向井家を去っていった。
...
”向井さんは首を吊って死んだ…。おそらくあそこの杉の大木で…”
祐二の死にを、不思議なほど冷静に直視できた律子には、ここからが彼との本当の遭遇だという思いが強かったのかもしれない。
「あんた…、どなたさんじゃね?そのオートバイ、祐二が乗っておったもんだろうが」
その声は低くややかすれていたが、しっかりとした口調ではあった。
そして不健康そうにくぼんだ目から発する淀んだ眼光が、”よそ者”をレントゲン照射していた。
あいさつ代わりと言わんばかりに…。
...
「このバイクは向井さんからネットオークションで私が譲り受けました。先週末に…。今日は、向井さんにお会いしようと、千葉から来たんです…」
律子はそう言い終えると、再度”祐二の家”を振り返った。
「…」
老人はその淀んだ瞳を、律子の左脇に停車しているバイクから離すと、再び口を開いた。
「…祐二は死んだよ。一昨日、地蔵の杉で首を括ってな」
「…」
心の内からは反射的に、”やっぱり”の一言が発せられたのを律子は自覚した。
それはまるで、予期していたかのように…。
確かに祐二の自殺は言い表せないほどのショックだった。
だが、今悲しみに浸るのはまだ早いと、それこそ無意識に自分へ言い聞かせていたのだ。
そう…、まずは知るべきこと、確かめるべきことをはっきりさせてからだと、律子の頭と心には整理がついていた。
...
「それなら、あんたは津藤さんじゃね?」
”ちょっと…、なんで知ってるの?私の名前…”
老人には彼女の心のつぶやきが聞こえたらしい。
「…この紙切れ、あんたがここに来たらに渡して欲しいと頼まれていたんでね。ほれ‥」
老人は一歩前に出て、律子にポケットから取り出したメモ書きのような紙を、押しつけるように差し出した。
「あのう、これはどなたから…」
「祐二の身内の女から預かった。昨日の午後、祐二の遺体を引き取る手続きで警察を訪れた帰りにここへ寄ってな…。なんでも、祐二からの手紙が届いて、そこにあんたの名前が出てたそうだ…」
「えっ?亡くなった向井さんから手紙って‥」
「…あんたの知りたいことは、月枝さんという叔母に当たるその女と会えば全部わかるさ。わしが中途半端に話すより、月枝さんから聞いた方がいい。そこに書いてある携帯番号に電話すりゃ、連絡がとれるさ」
そこまで話すと老人は律子に背を向け、外へ向かって歩き出した。
今度は後ろ姿のせいか、同じゆっくりとした足取りながら、何か低く飛び跳ねてるように見えた。
それは動きの鈍いカエルのご帰宅さながらだったが、律子の目にはやはり妖怪に映ってしまう。
「あの!お名前聞かせてもらえますか?」
咄嗟の判断だったが、律子は老人の”素性”は確かめておくことにした。
「わしは向井のこの家から3軒先の石毛っていうもんじゃ。…もっともこの集落じゃあ、石毛が3分の1だわ。わしのことは青屋根の石毛って言えばここのもんには通じる」
「じゃあ、向井さんって家もこの辺には多いんですか?本家とか分家とかってことで…」
なぜか、”その言葉”は自然と出た…。
知りたいというよりも、この時の律子には、妖怪じいさんにぜひ確かめておきたいこと…、その思いの方が強かったのだ。
...
尾隠しの妖怪は一旦立ち止まり、律子を振り返ると、かすれた声で答えた。
「向井はこの一軒だけじゃった。それも祐二が死んで、オヤジやほかのもんももうおらんし、向井の家は絶えたことになる。この家と土地も担保に入ってるようだし、いずれ人手に渡るだろうな」
「…そうですか。では、石毛の家はまた占拠比率が上がりますね?」
「…大して変わるか、その程度で!」
石毛という老人は語気を荒げた。
そして心持ち足早に向井家を去っていった。
...
”向井さんは首を吊って死んだ…。おそらくあそこの杉の大木で…”
祐二の死にを、不思議なほど冷静に直視できた律子には、ここからが彼との本当の遭遇だという思いが強かったのかもしれない。