息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
死者からの手紙/その3
トンネル内は意識してスピードを抑えて走った。
そして五感をその場の空気に浸らせ、律子はひたすらに何かを感じ取ろうとしていた。
トンネル中央付近ではさらに徐行状態まで速度を落とすと、医師Bの妻が無邪気にはしゃぎまわる情景、医師3人が歌を歌っているイメージが頭の中に描写された。
律子が、それらをその”現場”に放射すると、何かの気が跳ね返ってくる…。
それを深い意識の中に溶け込ませている…、律子はそんな自分を感じていた。
”静かだが、いろんな声が聞こえる。それに、雑多なざわめきも…。それらは、それぞれが途切れなくぶつかり合っている感じがする…。でもバイクのエンジン音はそれらとは違う場所で響いている。なんだか、生きのもの雄叫びのようだ…”
その間、彼女の目先はずっとトンネルの出口一点に注がれていた。
まさに暗い空間の向こう側から差し込む光だけを捕え、そこに吸い込まれることを望むように…。
...
やがて、律子の”意識”は気づいた。
トンネルの出口は最初から正面に見えていたが、なかなかその出口は近づかなかったのだ。
長い時間、トンネルの出口も進行方向へ向かって走っている感覚だった。
”意識があまりに深いところにたどり着いて、時間を遅らせているのかも…。この空間から私を解放することを、何かが拒んでいるんだ!”
トンネル内を走るバイクの反響音は、新しい主の訴えるような心の奥底からの絶叫に呼応して、まるで獣の遠吠えのようだった。
”言い知れぬ、この一体感って…”
律子の脳裏にはそんな言葉がよぎった。
...
ようやく隠山トンネルを出ると、そこは違う世界の空気がすっぽりと口を開けているようだった。
その口の中に飛び込んでいくことに躊躇したない”自分達”を感じながら、律子は一気にスピードを上げた。
出口から約20M先の左手にある尾隠し地蔵と杉の大木にも、あえて見向きもせずに、あっさりと走り過ぎた。
視界の片隅にはほんのわずかに”かたまり”が映ったが、今は無視を決め込み、律子は山道を無心で駆け抜けて行った。
頭の中では役場で起こした地図が焼き付いていて、全く迷うことなく、細い山道を疾走していく。
それは、このバイクが元の”主”のところまで運んでくれているようでもあった。
だが、律子はバイクと自分が一緒に走っているのは、目の前に存在する道だけでないことも悟っていた。
もう一つの旅にも出ていることを…。
...
”着いた…”
山を背負った古いその平屋はひっそりとそびえていた。
入り口には門もなく、玄関の前まで進入すると、律子はエンジンを切り、バイクを下りて表札を見上げた。
『向井祐二』…、確かにそう書かれている。
”ここが彼の家だ…”
律子は呼び鈴を鳴らすことも、玄関を開けることも、中に向かって呼びかけることもせずにただ黙って、彼の家の前に立っていた。
無心で…。
すると…、しばらくして、誰かが敷地内に入ってくる気配がした。
振り返ると、そこには明らかに年老いた男性が杖を突きながら、ゆっくりと玄関に向かって歩いてくる。
いや、それはふわりふわりと漂うように、こちらに近づいているという感じだった。
そして、その老人は律子の2M程手前で立ち止まった。
”ふん…、この人、まるで妖怪だ”
律子は口に出さずにそう吐き捨てた…
トンネル内は意識してスピードを抑えて走った。
そして五感をその場の空気に浸らせ、律子はひたすらに何かを感じ取ろうとしていた。
トンネル中央付近ではさらに徐行状態まで速度を落とすと、医師Bの妻が無邪気にはしゃぎまわる情景、医師3人が歌を歌っているイメージが頭の中に描写された。
律子が、それらをその”現場”に放射すると、何かの気が跳ね返ってくる…。
それを深い意識の中に溶け込ませている…、律子はそんな自分を感じていた。
”静かだが、いろんな声が聞こえる。それに、雑多なざわめきも…。それらは、それぞれが途切れなくぶつかり合っている感じがする…。でもバイクのエンジン音はそれらとは違う場所で響いている。なんだか、生きのもの雄叫びのようだ…”
その間、彼女の目先はずっとトンネルの出口一点に注がれていた。
まさに暗い空間の向こう側から差し込む光だけを捕え、そこに吸い込まれることを望むように…。
...
やがて、律子の”意識”は気づいた。
トンネルの出口は最初から正面に見えていたが、なかなかその出口は近づかなかったのだ。
長い時間、トンネルの出口も進行方向へ向かって走っている感覚だった。
”意識があまりに深いところにたどり着いて、時間を遅らせているのかも…。この空間から私を解放することを、何かが拒んでいるんだ!”
トンネル内を走るバイクの反響音は、新しい主の訴えるような心の奥底からの絶叫に呼応して、まるで獣の遠吠えのようだった。
”言い知れぬ、この一体感って…”
律子の脳裏にはそんな言葉がよぎった。
...
ようやく隠山トンネルを出ると、そこは違う世界の空気がすっぽりと口を開けているようだった。
その口の中に飛び込んでいくことに躊躇したない”自分達”を感じながら、律子は一気にスピードを上げた。
出口から約20M先の左手にある尾隠し地蔵と杉の大木にも、あえて見向きもせずに、あっさりと走り過ぎた。
視界の片隅にはほんのわずかに”かたまり”が映ったが、今は無視を決め込み、律子は山道を無心で駆け抜けて行った。
頭の中では役場で起こした地図が焼き付いていて、全く迷うことなく、細い山道を疾走していく。
それは、このバイクが元の”主”のところまで運んでくれているようでもあった。
だが、律子はバイクと自分が一緒に走っているのは、目の前に存在する道だけでないことも悟っていた。
もう一つの旅にも出ていることを…。
...
”着いた…”
山を背負った古いその平屋はひっそりとそびえていた。
入り口には門もなく、玄関の前まで進入すると、律子はエンジンを切り、バイクを下りて表札を見上げた。
『向井祐二』…、確かにそう書かれている。
”ここが彼の家だ…”
律子は呼び鈴を鳴らすことも、玄関を開けることも、中に向かって呼びかけることもせずにただ黙って、彼の家の前に立っていた。
無心で…。
すると…、しばらくして、誰かが敷地内に入ってくる気配がした。
振り返ると、そこには明らかに年老いた男性が杖を突きながら、ゆっくりと玄関に向かって歩いてくる。
いや、それはふわりふわりと漂うように、こちらに近づいているという感じだった。
そして、その老人は律子の2M程手前で立ち止まった。
”ふん…、この人、まるで妖怪だ”
律子は口に出さずにそう吐き捨てた…