※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「父が決めた縁談で、相手のことはよく知りません。けれど、縁談が決まったからには、もうフラフラ遊んでいるわけにはいきませんから」


 昨夜、折よく父から持ち掛けられた縁談に私は飛びついた。これまでだって、縁談話が来ていなかった訳じゃない。貧乏男爵だとか子爵だとか、財力を持つ私との結婚を望む貴族は結構多くいるのだ。


(私はもう、愛を求めたりなんてしない)


 こんなにも悲しみと隣り合わせならば、私はもう恋なんてしない。夫には相互にメリットがあるぐらいの相手の方が良いと思った。


「俺とのことは遊びだったってこと?」


 オスカーは私の肩を掴み、そう尋ねる。


「ーーーーーそうよ」


 答えながら私は大きく息を吸った。
 違う。本当は遊びなんかじゃない――――本気の恋だった。
 けれど、本当のことを口にしたらみっともなく取り乱してしまいそうで。オスカーだってそんな私は見たくないはずだ。後腐れなく綺麗に別れたいから、必死に虚勢を張っているだけだった。


「嘘吐き。ミアはそんなことできる人じゃないだろ」


 オスカーの手のひらが私の頬を覆って、胸の辺りが焼けるような感覚に襲われた。誰のせいで!って言い返すだけの強さを私は持っていない。
 私だって嘘だと思いたかった。オスカーはそんなことする人じゃないって。そう思いたいのに、彼を信じて今以上に傷つくことが怖かった。


「人は見かけによらないものよ」


 そう言い残して、私はその場から走り出した。


「ミア! 俺の話がまだ――――」


 オスカーの声が小さく聞こえる。
 ごめんなさい。オスカーの話を受け止められるほど、私は強くない。結果が同じなら、どうかこれで許してほしい。もう二度と会うことも無いんだから――――そう思ったのが昨日の話。

 けれどオスカーは今、私の目の前にいる。父から『婚約者』として紹介された男性。それが他ならぬオスカーだった。


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