※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「一か月間、長かったなぁ。ここまで我慢した俺を褒めてほしいぐらい」

「あっ……! その、ごめんなさい」


 その時になってわたしは、紳士だから女性に手を上げられないのだと気づいた。手を挙げる代わりに、わたしを目に入れないよう、こうして抱き締めているんだろう。


「わたし、自分の魔法は成功しないからって。ものすごく軽い気持ちでこんなことを……キース様に惚れ薬を使ってしまって――――」

「本当だよ」


 じわっと涙が込み上げた。
 今日までずっと、何度も何度も、ありとあらゆる言葉で詰られる自分を想像してきたというのに。わたしに涙を流す資格なんて無いって分かっているのに。心が苦しくて堪らなかった。


「おかげで、一世一代の告白なのに、偽物だって勘違いされた」

「……え?」


 キース様はわたしをギュッて抱き締めなおしながら、スリスリと頬擦りをする。


(一世一代の、告白?)


 首を傾げるわたしに、キース様はめちゃくちゃ長くて深いため息を吐いた。


「めちゃくちゃ勇気だしたんだよ? ハナに『好き』って言うの」


 キース様はそう言って、わたしの顔を真っ直ぐに覗き込んだ。真っ赤に染まった頬。惚れ薬を最初に吹きかけた時よりも潤んだ瞳に、わたしの胸が震えた。


「そ、んな。まさか、そんな……」

(わたしはまた、失敗していた?)


 わたしが惚れ薬を吹きかけたその時、キース様が「好きだ」と言ってくれた。けれど、それは本当に偶然の出来事で、実はいつものように魔法が発動しなかったとしたら。


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