※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***


 いつものようにセオドアを見送り、永遠にも思える時間を一人で過ごす。空が白み、侍女達がようやくわたしを起こしにやって来る。


「サロメ様、本日のお召し物はこちらのドレスに致しましょう?」


 従者たちは皆、セオドアのことを知っていて、知らぬふりをしてくれている。元の主人を裏切るようなわたしの行為に、目を瞑ってくれている。

 皆のためにも、早く新しい結婚相手を見つけなければならない。
 分かっているけど、セオドアと再会して、わたしは彼以外の人のことを考えられなくなってしまった。罪悪感や居心地の悪さは高まるばかり。自分でも本当にどうしようもない女だと思う。


「サロメ様、本日は午前中に来客の予定がございます」

「来客?」


 もしかして、また妹が来るのだろうか? 嫌だな、と思っていたら、執事のロバートは首を横に振った。


「旦那様にとっても、サロメ様にとっても、大事なお客様です。心してお迎えください」

「…………分かったわ」


 含みのある物言いに引っ掛かりを覚えつつも小さく頷く。

 それから数時間後。
 馬車の音を相図に、屋敷の入り口へと向かう。

 今日のわたしの装いは、いつも以上に豪華だった。特別な時だけ身に着けるドレスにジュエリー、侍女達が美しく化粧を施し、髪を綺麗に結いあげてくれる。帝国一の美姫だ――――っていうのは明らかに言い過ぎだと思うけど、たくさん褒めて貰って、無理やりテンションを上げる。
 余程大事なお客様なのだろう――――そう思っていたわたしは、扉が開くと同時に呆気にとられた。


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