※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「アザゼルったら酷いよね~~。少しぐらい話をしてくれれば良いのに」


 そう言ったのはクラウド――昨日も図書館で偶然会ったこの国の王太子だ。クラウドは満面の笑みを浮かべ、サラの頭を撫でながら空いていた席へと座る。

 今は昼休み。アザゼルは机に突っ伏して眠っているので、サラはその隣の席を陣取り、ひたすらに熱い視線を送っている所だった。


「え……えぇ、と」


 なんと返すべきか迷いながら、サラは口ごもる。
 クラウドはなおもニコニコ笑いながら、チラリとアザゼルを見た。


「女の子にはもっと優しくしないとね?子どもの喧嘩じゃあるまいし、もっと……」

「あの、驚かないんですか?アザゼルがこんな……急に変わってしまって」


 サラは思わず口を挟んだ。クラウドは今日、人相の変わったアザゼルを見ても動じることなく普通に接していたし、アザゼルもそんなクラウドを邪険に扱うことはしなかった。今だって、アザゼルの応対を咎めただけで、まるで今の彼アザゼルであることが当たり前のように話している。


(大抵の人は、『アザゼルの様子がおかしいこと』を先に尋ねてくるのに)


 それがサラにはどうにも腑に落ちなかったのだ。


「ん~~~~~~そうだねぇ?」


 クラウドは思案顔を浮かべながらサラを見つめると、そっと顔を寄せた。


「驚いていないと言ったら嘘になる……そのぐらいかな?」

「え?」


 何やら含みのある物言いに、サラは首を傾げた。クラウドはなおもサラへ近づくと、そっと耳に口を寄せる。


「ねぇ、このままずっと、アザゼルがこんな感じだったらさ……俺と結婚しよっか」

「へ!?」


 思わず素っ頓狂な声を上げながら、サラは飛び上がった。全く予想だにしていなかったセリフに、心も体も全く順応できていない。


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