※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「あの――――わたくしからもいくつか、よろしいでしょうか?」


 それまで黙っていたネリーンが、躊躇いがちに口を開いた。
 三年間の学園生活の中で、俺は彼女が喋るのを初めて見た。そのぐらい、彼女は口数が少ない。正直言って驚いた。


「……もちろんだとも!なんだい、ネリーン?この性悪女になにか言ってやりたいのかい?」


 完全に己に酔っているアロンソは、ネリーンの頬を撫でながら、キラキラと瞳を輝かせる。


(性悪はお前だろう)


 そんなことを思っていたら、思わぬことが起こった。


「いいえ。わたくしは目の前の『性悪バカ男』に、いくつかモノ申したいのです」


 ニコリ。
 極上の笑みを浮かべながら、ネリーンは真っ直ぐにアロンソを見つめる。


「……へ?」


 アロンソは目を真ん丸にしながら、首を小さく傾げた。
 思わぬ展開だ。
 少しばかりの期待を胸に、俺はそっと身を乗り出した。


「まずはその、汚らしい手を退けてください。不愉快です。鬱陶しいです」

「えっ!?やっ……えぇ!?」


 ネリーンはアロンソの手を振り払いつつ、ふぅ、とため息を吐いている。
 ひとことだけではとても信じられなかった、ネリーンの毒舌。けれど、ふたこと続けば、それが実際に起こっていることだと皆が気づき始める。周囲からざわめきが起こった。


「それから、わたくしはあなたと結婚する気はございません。あなたの想いを受け入れた覚えもございません。それなのに、どうしてこのようなことになっているのですか?」

「えぇ!?いや、だってネリーン……」

「もしかして先日、『ネリーン――――もう少しだけ待っていてほしい』って仰っていましたが、これが求婚のつもりだったのでしょうか?正直、意味が分からないなぁってイライラしながら聞いていました。勝手に付きまとわれて迷惑していたので、ようやくそれが終わるのかなぁって期待していたのですが」


 ネリーンは花のような笑顔を絶やさぬまま、矢継ぎ早に言葉を重ねる。
 アロンソを含めて周囲は唖然。誰もがネリーンの豹変っぷりに度肝を抜かれていた。


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