※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
(……ふぅん、なるほど。結局はネリーンも、婚約者がいると知っていて、アロンソの求婚を受け入れた性悪女なのか)


 ここ数年、まるで伝統のように続いてきた、卒業パーティー会場での婚約破棄。人伝にその様子を聞くたび、馬鹿だなぁなんて思ってきたのだけれど。
 実際に現場を目の当たりにしたら、予想以上。吐き気すら覚える。
 親が決めた結婚とはいえ、未来を約束した令嬢を裏切る男も。
 そんな男との幸せな未来を夢見る女も。
 どちらも馬鹿だ。馬鹿すぎる。


(キトリ嬢は――――っと。珍しいな。いつもなら反撃しても良い頃合いだけど)


 キトリはアロンソが言及した通り、とても口の達者な令嬢だ。良いことも悪いことも、全て正直に口にするタイプで、裏表がないともいえる。
 けれどその分、彼女を恐れる同級生は多い。下手に意見をすれば、言い負かされることが分かっているからだ。


(あーーぁ。早く終わらないかなぁ、これ)


 この場の被害者は、アロンソに裏切られた令嬢キトリだけではない。
 一生に一度の卒業パーティーを妨げられ、いつの間にかこの茶番劇の『群衆』という役を割り当てられている俺たちだって、ものすごい被害者だ。
 このままキトリが何も言わなければ、この茶番劇はグダグダに長引いてしまうかもしれない。


(めちゃくちゃ面倒だけど)


 俺が一肌脱がなければならないのだろうか。そう思ったその時だった。


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