※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
(しかし、俺のことを利用するとは)


 確かに俺自身が不快に思ったことは事実だし、言っていることは全て的を射ている。
 一応俺はこの国の王太子で、卒業パーティーでも華となるべき人間だ。別に俺自身がそうしたいわけじゃないけれど、そういう立場にいる。


(まぁ、アロンソへのお咎めは、側近の内の誰かが勝手に上手いことやってくれるだろう)


 若干気の毒に思うが、自業自得だ。貴族社会における体面はアロンソが思う以上に重い。家族への影響が少ないことを祈るばかりである。


(それにしても)


 これまで『頑な』と形容できるほどに、ネリーンは何事にも口を噤んできた。そんな彼女が口を開いてみれば、想像を絶するほどの毒舌で。おまけに表情はいつも通りの上品な笑顔だから、中々に理解が追い付かない。
 俺と同じ気持ちらしいアロンソが、絶望的な表情でネリーンに縋った。


「どっ、どうしたんだネリーン?いつもの君はどこへ行った?美しくて慎ましい、俺のネリーンはどこに――――?」

「そんなもの、最初から存在しません」


 ネリーンはそう言って、ゆっくりと目を細める。


「全部あなたが勝手に抱いた幻想です」


 その笑顔は、身体をゾクゾクと震え上がらせるぐらい冷たい。何故だか俺は、口の端が上がってしまった。


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