※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「アロンソ様がわたくしの周りをウロチョロしている様子を黙認し、その間に婚約破棄の決定打になる事を仰いましたでしょう?――――あなたは以前から、愚かなアロンソ様との結婚を憂いていらっしゃいましたものね」

「それは当然でしょう。私が何を言っても聞く耳を持たない。妄想ばかりで地に足も付いていない。無能なくせに努力も何もしない。良識も良心の欠片すら存在しない。――――そんな男と結婚したいと思う令嬢がいると思います?」

(毒姫が二人に増えてしまった!)


 思わず口元を押さえながら、俺は必死で笑いを堪えた。
 キトリの毒舌は知っていたけれど、そんな人間が二人も集まる機会は中々ない。しかも一人の人間を集中砲火するなんて、希少だ。
 既にアロンソの気力ゲージはゼロだろう。けれど、彼女たちの口は、留まることを知らなかった。


「いいえ、おりません。いるはずがありませんわ。それに、わたくし以前から、アロンソ様がキトリ様に相応しいとは、とても思えませんでしたの。もっともっと、聡明なキトリ様に相応しいお相手がいるはずだって。こんな、衆人環視の中での婚約破棄になったことは気の毒に思いますが……」

「良いのよ!これでこのバカが宮廷で日の目を見ることは無いし、私たちがこれだけこき下ろしたんだもの。今後アロンソの毒牙に引っかかる様な、気の毒な令嬢もいないでしょう?それに、私はフリーになったことが皆に知れ渡ったわけだし」


 晴れ晴れとした笑みのキトリに、アロンソは呆然と座り込む。


(あぁ、とんだ茶番――――喜劇だった)


 幻想に憑りつかれた哀れな男。アロンソがこれから辿る道は、確かに険しいものになるだろう。
 こうして劇は終幕を迎えた。


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