※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「普通ならそうでしょうね」

「……え?」


 クスリと笑う妹の姿に、デルミーラは目を丸くする。こういう時、キーテはいつも謝罪の言葉を口にしていた。『申し訳ない』と眉を下げ、己の不甲斐なさを嘆く筈だというのに。


「エルベアト様なら大丈夫。心の優しい、愛情深い方ですから。
私だって、今のままではいるつもりはありません。彼のために強くなりたい。エルベアト様を支えられる立派な妻になりたいって思うの」


 キーテの瞳には強い光が宿る。今の彼女が体調を崩したとしても、誰も、彼女を可哀そうとは思わないだろう。彼女の側に居る、デルミーラのことも――――。


「それじゃダメよ」

「え?」


 デルミーラの言葉に、キーテは首を傾げる。
 その時、激しい腹痛がキーテを襲った。


「うっ……あぁ!?」


 自分の意思ではどうにもならない程に強い波。抗いきれず、キーテはその場に蹲る。汗が滝のように流れ、身体から血の気が引いた。


「あなたが悪いのよ、キーテ。あなたはわたくしの隣で、病弱で可哀そうな妹で居続けなければならないの――――生涯、ね」


 頭上で響く冷たい声。鈍器で殴られたように頭が痛み、最早目も開けていられなかった。声音は確かに姉のものだというのに、キーテには現実が受け入れられない。


(まさか……そんなことって…………!)


 今までのことは、全部、デルミーラが仕組んだことだったのだろうか。外出しようとする度に体調を著しく崩したことも、熱や激しい吐き気に見舞われたあの苦しい日々も。その度に彼女が優しくキーテを看病し、庇ってくれたことさえも――――全ては可哀そうな姉妹を演出するためだったとしたら――――。


「誰か! 誰か来て! キーテが……キーテがっ…………!」


 叫び声が次第に遠ざかっていく。キーテは意識を手放した。


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